03.11.25

将来への対応:d&b audiotechnikによるMilanとMilan Managerへの取り組み

オーディオは100年以上にわたって銅線を通じて伝送され、さらに50年間イーサネットで伝送されてきました。この20年間に、多くのオーディオオーバーイーサネット(Audio-over-Ethernet)プロトコルが登場し、それと同数のプロトコルが消えていきました。

そうしたなか、Milan(Media Integrated Local Area Networking)プロトコルにより、プロレベルのリアルタイムアプリケーションの要件に特化した仕様が確立されました。Milanはオープンで、相互運用性があり、将来に対応できるプロトコルです。この発展の原動力の1つとなっているのがd&b audiotechnikです。d&b audiotechnikは、Milan対応製品が増加している現状に目を向けているだけではなく、メーカーに依存しないMilan Managerの共同開発などを通じて、エコシステムのさらなる開発にも積極的に携わっています。

Milanは、IEEEのオープン規格であるAVB(Audio Video Bridging)とTSN(Time Sensitive Networking)に基づいています。このプロトコルは、オーディオデータの決定的な低遅延かつ安全な伝送を保証し、長い間プロオーディオの世界に欠けていたハイレベルの相互運用性を実現します。異なるメーカーのデバイスでも、Milan認定されている限りは、シームレスに連携動作できます。システム構成は自動的に行われ、帯域幅が予約されます。また、高負荷時でも同期は数ナノ秒の精度で維持されます。したがって、Milanは高信頼性が求められるライブイベントや固定設置場面で特に好評を得ています。

IEEE(「Institute of Electrical and Electronics Engineers(米国電気電子学会)」の略称)は、エンジニアや技術者を対象にした世界有数の専門家組織です。IEEEは、イーサネットやリアルタイムの発展形態であるAVB(Audio Video Bridging)およびTSN(Time-Sensitive Networking)を含む、さまざまな技術分野における国際標準を策定し公開しています。これらの規格はMilanの基盤を形成していて、技術がオープンでライセンスフリーであること、およびメーカーを問わず使用可能であることを保証します。

© d&b audiotechnik
© d&b audiotechnik

Avnu Allianceの役割

これらのIEEE規格をデバイスに組み込むために、ある強力なコミュニティがMilanを支えています。非営利組織のAvnu Allianceです。Avnu Allianceは、時間の制約が厳しいアプリケーション向けに、標準化されたオープンかつ相互運用可能なネットワーク技術を共同で推進するために設立されました。

その取り組みの中で、プロオーディオ業界の要件に特化した、信頼性が高く、確実で、適応性のあるネットワークプロトコルの必要性が認識されたのです。その後、主要なAV機器メーカーによるワーキンググループがAvnu Alliance内に結成され、それ以来、AVB(Audio Video Bridging)の相互運用性を実現するために、共同でMilan仕様の開発が進められています。

Avnu Allianceは、仕様の管理だけでなく、Milanデバイスの認定も担っています。厳密な相互運用性と性能テストに合格した製品のみが、Milan認定を取得します。これは、使用時の信頼性と互換性を維持する上で重要なことです。

MilanとDante – この2つのプロトコルの目標は同じか?

デジタルオーディオネットワークに関しては、MilanとともにDanteという名前がよく挙げられます。このプロトコルは、オーストラリアの企業であるAudinateによって開発されたもので、広く使用されており、特にライブやスタジオ環境で定着しています。どちらのプロトコルもイーサネットを介した高品質なオーディオ伝送という同じ目標を追求しています。ただし、その達成の仕方は異なります。

Danteは標準的なIPネットワーク(レイヤー3)に基づいていて、伝送にはRTP(Real-time Transport Protocol)を使用します。これにより、既存のITインフラに柔軟かつ簡単に統合することができます。同期はPTP(Precision Time Protocol)を使用して行われ、「Dante Controller」による中央管理は、多くのユーザーが慣れ親しんでいるワークフローに沿って実施されます。ただし、安定した性能を維持するには、多くの場合QoS(サービス品質)、IPサブネット、マルチキャスト、VLAN、IGMPなど、プロ向けネットワーキング環境での一般的な概念に基づいた手動のネットワーク構成が必要になります。冗長性は、多くの場合、個別のネットワークではなく、2つのVLANを使用して実装されます。

それとは対照的に、Milanはレイヤー2に基づいていて、TSNのプロオーディオ向けプロファイルであるAVBを使用しています。大きな利点は、gPTPプロトコルを使用するAVB対応スイッチが正確な時刻同期を実現し、帯域幅を必要なだけ、自動的に確保できることです。したがって、遅延もなく、手動によるQoS設定も不要です。IGMPやVLANを気にする必要もありません。ネットワークインフラは、理解しやすく、安定していて、予測可能な状態を維持します。これは、ITではなくオーディオに集中したい人にとって重要な利点と言えます。

Danteは独自のシステムですが、MilanはオープンなIEEE規格に基づいています。つまりこういうことです。Milanは多くのメーカーによって共同開発されていて、ライセンス料はかかりません。誰でもMilanのハードウェアとソフトウェアを実装できます。そのため、複数のプロバイダーがソリューションを提供できるのです。特に世界的に供給が不足している時代には、これは過小評価すべきでない利点となります。
 

© d&b audiotechnik マティアス “マッツェ” クリストナーとダニエル・ツィンマーマン(左から順に)

「Danteは多くのアプリケーションにとって優れたソリューションであり、もちろん私たちは今後もこのプロトコルに対応したデバイスの開発を続けていきます」と、d&b audiotechnikのシステム&テクノロジー部門のR&D責任者であるマティアス “マッツェ” クリステナーは語っています。「しかし、Milanは予測可能性と相互運用性の点でまったく異なる次元の品質を実現しています。つまり、あらゆる条件下でラインアレイに必要な同期を保証する唯一のプロトコルなのです。」

d&b audiotechnikのDSP&ネットワークプロダクトマネージャーであるダニエル・ツィンマーマンもこう強調しています。「Milanでは、すべてのスイッチで常に十分な帯域幅が自動的に確保されます。サンプルごとにスロットが予約されます。これにより、システムは非常に堅牢で信頼性の高いものになります。」

Milanの普及という面での画期的な出来事は、2024年1月に発表されたd&b audiotechnikとL-Acousticsの提携でした。この2社は本来競合関係にありますが、相互の強みを活かして、ツールや技術に共同で取り組むことにしたのです。その目的は、Milanの普及を促し、ユーザーが Milan-AVBネットワークのセットアップや管理をより直感的かつスムーズに行えるように、導入のハードルを下げることです。

© d&b audiotechnik

シグナル効果 ― Milan Managerの導入

この両者による協力の成果の1つがMilan Managerです。これはメーカーに依存せずに、Milanネットワークの構成と監視を行うための無料ソフトウェアです。このソフトウェアではネットワーク内のすべてのMilanデバイスを自動的に検出し、グリッドビューによってチャンネルのルーティングを簡単に行うことができます。詳細なステータスの概要も提供します。Milan Managerは、 https://www.milanmanager.com からダウンロードでき、WindowsとmacOSに対応しています。

「オーディオエンジニアはネットワークの問題に時間を費やすのではなく、オーディエンスがワクワクするような音の体験を生み出すことに集中できなければなりません」とマティアス・クリストナーは語っています。

Milanの実装:なぜ機能するのか

「MilanはAVBに基づいていますが、AVBのパラメータは多岐にわたっています。したがって、異なるメーカーの2つの製品の両方にAVBラベルが付いていても、互換性がない場合があります。その一方で、Milanのユーザーは、認定済みのデバイス同士であればスムーズに通信できることを確信できます」とダニエル・ツィンマーマンは説明しています。

Milanはタイミングの面でも標準を確立しています。特にラインアレイをコントロールする際には、最高レベルの精度が求められます。ツィンマーマンはこう言います。「オーディオ信号が完全に同期して届かない場合は、高周波域で位相のずれが生じ、その結果、可聴品質が劣化する可能性があります。Milanは現在、この精度を保証する唯一のプロトコルです。あらゆる条件に対応します。」

マティアス・クリストナーはさらに次のように語っています。「d&bにとって、ラインアレイをコントロールする際に特に重要なのは、すべてのプロセッシングおよびアンプチャンネルでオーディオ信号が非常に安定し、時間同期された状態で届くようにすることです。そのようにしないと、高周波域は想定どおりに再現されなくなってしまいます。わずかなタイミングのずれでも、アレイの各要素が互いにずれてしまうからです。それは非常に逆効果だと言えます。Milanでは、サブマイクロ秒レンジでの同期を達成できます。これは音質にとって非常に重要です。」

XLRからイーサネットへ

マティアス・クリストナーにとって、これは明らかなことです。「イーサネットソケットは新しいXLRです。」Milanは、メーカーに依存しないワークフローを可能にします。つまりユーザーのニーズを重視し、独自システムの制限に影響されません。「業界では、システム技術者があるツアーでd&bのシステムを扱い、次のツアーではL-Acousticsのシステムを扱うというのはよくあることです。一度習得したワークフローを、メーカーに関係なく適用できたとしたら、それは技術者にとって大きな利点となります。」

ダニエル・ツィンマーマンもこう確信しています。「どれほど広範で動的なMilanシステムが実装されていても関係ありません。それが何であれ、可能なことはすべて確実に動作するようになるでしょう。」

© d&b audiotechnik

d&bの製品世界におけるMilanの存在

d&b audiotechnikは、DS100Mシグナルエンジン、DS20オーディオネットワークブリッジ、DN1スイッチ、およびD90、D40、40D、D25、25Dアンプなどの広範囲にわたる製品にMilanを統合するようになりました。特にD40は、2025年春のファームウェアアップデートによってMilan対応となり、既存のハードウェアがソフトウェアを通じて将来にも対応できるようになる好例となっています。

結果

主要なプロオーディオ機器メーカーとの緊密な連携と継続的な開発により、Milanプロトコルは、AV業界で進行するデジタル化という課題に対して、将来にも対応できるソリューションを提供しています。ユーザーは、本来の仕事でない技術的な複雑さに対処するのではなく、オーディエンスのために素晴らしい、記憶に残る体験を創り出すという最も大切なことに専念できます。