私がこの記事を書いている今日、社会の集合的な焦点の大部分は、さらなるCOVID-19の一年を切り抜けて、軌道に戻ることに向けられています。それはそれで重要ですが、一旦立ち止まって先を見据えることも私たちにとって不可欠です。ただこれは、過去の状況を考えると、いつでも可能だったわけではありません。おそらく私たちは、“軌道に戻る”のではなく、イベントの世界がどのように変化したか、アーティストやクリエイター、会場運営者、イベントサービスプロバイダーから何を求められているのかを理解する必要があります。パンデミック後の“未来の顧客”はさまざまな要件を抱え、イベントテクノロジー企業は、こうした新しい優先事項を満たすために、より革新的で、柔軟で、効率のよい新しい手法を見つけなくてはいけません。
私たちの業界はこの危機から脱却して、従来持っていた力強さを取り戻していると心から信じていますが、イベント市場は将来大きく異なるものになるとも確信しています。現在、顧客の購買行動は劇的に変化しています。これらの行動は、パンデミックによって急速に発展してきたメガトレンドのもとで説明することができます。諸変化は、デジタル化、持続可能性の向上に対する一般的な要望、そしてエンドツーエンドサービスへのより高速で幅広いアクセスに対する顧客のニーズによって推進されています。d&bでは、こうしたトレンドに対して積極的に対策を講じてきました。
パンデミックの結果として、私たち一人一人がもはや後戻りできないほど変化し、私たちの習慣も変わりました。将来の成功は、企業が顧客の新しい優先事項をどれだけよく理解しているかにかかっています。今、私たちは長い目で全体像を考え、現在のアプローチに継続的に小さな変更を加えて、大きく異なる結果を生み出すようにする必要があります。
デジタル化は至るところに
COVID-19が2020年初頭に世界的なパンデミックを引き起こしたとき、世界は、直接会うことなく効果的に相互作用する方法を確立する必要に迫られました。これにより、すべての人々の生活におけるデジタル化のレベルが大幅に向上しました。イベントのデジタル化とバーチャル化が進むに伴い、私たちは、オンラインとオフラインで同時に交流が行われるハイブリッドなライフ・エクスペリエンスの基盤を構築しました。拡張現実アプリケーション(XR)を創造するための5G、VR / AR(仮想/人工現実)機器、メディアサーバーといったテクノロジーは、イベント業界で突如として主要な役割を果たすようになり、現実世界と仮想世界を結び付けています。d&bではすでにこの数年間、オーディオメーカーから、オーディオ、映像、照明、メディアを統合したソリューションを提供するイベントテクノロジー企業へと移行するべく力を尽くしてきました。そして、昨年の初めには当社の新しい事業体であるd&b solutionsを正式に発表しました。d&b solutionsは、完全なAVL(音響・映像・照明)ソリューションの統合への顧客需要の高まりと、設計、プラニング、統合、および設置後サービスにおけるメーカーサポートに対する要求の高まりから誕生しました。そして、英国でのSFL社とWhiteLight社の買収により、統合AVLMソリューションのためのd&bの能力を拡張するための大きな一歩を踏み出しました。
イマーシブは新しい標準
パンデミック期間中は、稼働率が低下し、ライブイベントや会場パフォーマンスに対する健康・安全上の要件が高まるとともに、運営者にかかるコストは増加し、利益は減少しました。そこで運営者は、より高いチケット価格設定を正当化し、(少なくとも部分的には)より高いコストを補うことができる、オーディエンスのための新しい体験を模索しています。私たちは現在、ライブエンターテインメントや企業イベントの全領域でサウンドクオリティーを改善し、新しい環境をシミュレートするための、3Dサウンドとルームエミュレーションに基づく新しいサウンドデザインの急展開を経験しています。そこでベースとなっているのは、新しいイマーシブ・テクノロジーとクリエイティブ・コミュニティによるその急速な導入です。イマーシブ体験は、過去2年間で目覚ましい進展を見せ、あらゆる種類のパフォーマンスの将来的なデザインのための新しいビジネスジェネレーターとなっています。そして、“本物のイマーシブ”は、驚異的な新しいサウンド体験であるだけでなく、照明と映像の融合でもあり、完全に統合されたイマーシブAVL体験となります。私たちが現在目にしているのは、従来の左右(ステレオ)オーディオカバレッジから、リスナーをプレイに引き込む完全にイマーシブなサウンド体験への明らかな変遷です。パンデミック後は、ほとんどのハイエンドプロダクションがイマーシブな考えのもとで進み、この傾向に対処するために設計、プラニング、テクノロジー、イベントサポートサービスが求められると想定されます。私たちはd&b Soundscape、新しいラウドスピーカーデザイン、d&b solutionsによる秀逸なサービスをもって、オーディエンスに格別の体験を提供することを願うクリエイターたちにすべてを提供する完全なエンドツーエンドのサービスを確立してきました。現在は、並外れた没入型ライブイベントパフォーマンスの大きな変化の始まりに過ぎず、そこでは革新的なテクノロジー企業の成長ポテンシャルが長く続く、と私は確信しています。
新しい購買行動
AVLM業界のハイエンド領域は、近づき難いと見なされることもありました。特に、小規模なプロジェクトのためにプレミアムソリューションを利用することは“ダークアート”のようなものであると示唆するようなフィードバックもありました。このような“近づき難い”という認識への対処は、新しいeコマース・プラットフォームであるd&b Directを立ち上げるという決定の背景にあった大きな推進力でした。これでお客様が望むソリューションをより早くお客様にもたらすことが可能になります - 比類なきサウンドを、すぐに使える状態で。最高レベルのプロ用音響ソリューションの“近づき易さ”と柔軟性を高め、並外れたサウンドを利用する邪魔になるかもしれない壁を打ち破るためにできることはまだあるはずです。したがって当社は、オンラインでソリューションにアクセスできるように継続開発をさらに続けていきます。
顧客の購入行動の変化への対処のもう1つの例は、新しく提供されたSubscription-Seriesです。当社の調査から、クライエントは時として大規模な先行資本投資(CAPEX)を行うことができない、あるいはそうした意図がないが、その代わりに、支払い方法の柔軟性を求め、システムの購入を操業費用(OPEX)に変えることがわかりました。彼らの最終的な目標は、システムを“使用”することであり、必ずしも“所有”することではありません。これは、ロックダウンとイベントの制限によるほぼ2年間にわたる収益の制限を経た後ではとりわけ当てはまります。Subscription Seriesは、“使った分だけ支払う”という世界的なトレンドに対応し、所有権に代わるものを提供します。d&bは、お客様に歩み寄り、プレミアムAVシステムを利用して素晴らしいサウンド体験を提供するためのサポートを行うことが不可欠であると考えています。このイニシアティブは、その実現に貢献しています。
持続可能性に対する新しい意識
最後になりますが、世界的に見られる真の画期的な潮流の1つとして、よりサステナブルに消費、行動、生活したいという願望が挙げられます。先進国の企業および政治システムは、ESGプログラム(環境・社会・ガバナンス)を求めています。こうしたプログラムでは、地球の資源をどのように管理するか、社会的エコシステムでどのような役割を果たすのか、自らの事業をどれだけうまく管理するかについて、私たちがより大きな責任を担うことが目標とされています。次世代に責任を持ち、すべての人に長期的な恩恵を保証することが重要な課題となります。政府だけでなく、顧客、ビジネスパートナー、金融投資家もESG要件を高めてきました。d&bでは長年にわたってエコロジーを意識して業務を行っています。例を挙げると、当社は、環境保護の最高要件を満たすEMAS認証(DIN ISO 14001)を取得している唯一のプロ用オーディオメーカーです。次世代のアンプやラウドスピーカー・プラットフォーム(D40 / 40DおよびSL Series)といった継続的なイノベーションにより、出力/電力消費の率を大幅に改善し、最適化された指向性コントロールによって騒音公害を削減します。つまり、「more art, less noise(もっとアートを、騒音を抑えて)」。当社が継続的に拡張している、新しい認定再製造品(CPO - Certified Pre-Owned)プログラムは、循環型経済の原則にしたがって、長期的に資源を保護することに大きく貢献しています。これらは、d&bが資源投資の最適化とカーボンフットプリントの低減により、“グリーンな会場”や“グリーンなツアー”の必要条件に対処していることを示す例の一部に過ぎません。また、社会的責任やガバナンスの継続的改善といった分野でも、私たちは業界の最前線に立っています。それは義務付けられているからではなく、そうした考えに納得し、それを実践する甲斐があると確信していたからです。
未来へのコンセプト
現在私たちは、デジタル化、新しい顧客購買行動、イマーシブ体験への需要の高まり、さらなるESGの重視によって推進される、長期にわたる市場の構造的変化に対処するまたとないチャンスを手にしています。こうした認識をもとに、現在および将来の顧客ニーズを予測し、何をより良くできるか、そしてどこでd&bのテクノロジーとサービスによって違いを生むことができるかを常に探求します。ドアとステージが再びオープンし、会場照明が消え、演奏が始まれば、私たちは皆、私たちの創造性と柔軟性に、そして類稀な回復力を誇り、絶えず変化する私たちの業界で見たり、聞いたり、体験したりすることに誇りを持てるはずです 。