d&b導入で柔軟性を発揮するサドラーズ・ウェルズ・イースト。
ロンドン東部ストラトフォードのクイーン・エリザベス・オリンピック・パークに新たに誕生した舞台芸術の拠点、Sadler’s Wells East(サドラーズ・ウェルズ・イースト)。その音響システムとして選ばれたのは、d&b audiotechnikのA-Seriesでした。
背景
本家であるサドラーズ・ウェルズ劇場は17世紀の「ミュージックハウス」から発展し、21世紀を代表する舞台芸術の拠点へと成長。その地位と伝統を受け継ぐ第二の会場、「サドラーズ・ウェルズ・イースト(SWE)」を創り上げることには、大きなプレッシャーが伴いました。最高水準の音質を備え、幅広いプログラムに柔軟に対応できるサウンドシステムを導入することが求められたのです。
会場の計画には、劇場コンサルタント会社Charcoalblue社による包括的な検討に加え、国際的に活躍するコンテンポラリーダンスアーティストをはじめ、多くの関係者からのフィードバックを取り入れて進められました。
設備の仕様決定や設置に関しては、SWEがAutograph社に依頼。新しい劇場を未来へ導く音響システム選定をしました。
目標の設定
SWEのテクニカルチームにとって、新しいサウンドシステムはいくつもの重要な要件を満たす必要がありました。第一はもちろん「品質」。言うまでもなく、同劇場はアーティストと観客の双方に世界水準の体験を提供しなければなりません。そして欠かせないのが「柔軟性」。新しいシステムは、550人収容の SWE メインホールに対応するだけでなく、イズリントンにある本家の劇場との間で作品を円滑に移行できることも求められました。
テクニカルディレクターのオリ・クラーク氏は次のように述べています。「私たちが求めたのは優れた音響再現性でした──すべての観客に明瞭で豊か、途切れのないカバレッジを届けることです。また、ツアーカンパニーが容易に利用できる操作性、そして標準的なプロセニアム形式とは異なるシステム構成を必要とする自主制作公演に対応できる拡張性も必要でした。」
さらに将来を見据え、「長期的な有効性」も不可欠でした。技術の進化が著しい中でも常に価値を発揮できるシステムが必要だったのです。クラーク氏はこう続けます。「私たちが重視したのは、長期的に有効性を保つ“将来性のあるシステム”であることです。大規模な再構成をせずに、補強やサラウンドを統合することで、マルチレイヤ―や空間的な演出を加えた、よりダイナミックな音響環境を実現する必要がありました。」
こうした要件を満たすために、Autographチームは複数の機材システムやセットアップを用意し、テクニカルチームが実際に評価できるデモンストレーションを行いました。
ソリューション
チームがメインスペースに選択したソリューションは、d&b audiotechnikのA-Seriesオーグメンテッドアレイ・ラウドスピーカーシステムをベースとしたものでした。このシステムは、将来的な要件をすべて満たすだけでなく、本家のサドラーズ・ウェルズ劇場で使用されているd&bシステムとの継続性および互換性も確保できると考えました。
d&bのアダム・ブルームは次のように述べています。「私たちはAutograph社と協力し、SWEのテクニカルマネージャーと音響責任者をナイルスワースにあるd&bの英国拠点に招き、A-SeriesのデモとArrayProcessingの詳細な検討を行いました。」
Autograph社の設計では、d&bのArrayCalcを活用してシステムのパフォーマンスが正確に予測されました。その際に同席していたd&bの英国チームが、必要に応じてArrayCalcシミュレーションをレビューする形でサポートを提供しました。
最終的なシステムは、左右とセンターのL-C-R構成で、それぞれにAL90オーグメンテッド・アレイキャビネットを3台ずつ吊り下げ、水平90°の指向パターンを提供します。ALフライングアダプターによって、作品のニーズに応じてAL90を水平方向に配置することも可能です。これを補完するのが、フライング設置されたVi-SUBアレイとと、グランドの左右それぞれに設置された2台のXSL-GSUBです。
d&bの超コンパクトで壁面埋め込み可能な44Sラウドスピーカーが20台、サラウンド用途として壁面に設置され、さらに6台のキャビネットが必要に応じてステージ前縁のフロントフィルとして使用可能です。ステージモニタリングはY7Pキャビネットによって提供され、システム全体の駆動は40Dおよび5Dモデルのアンプが用いられています。
結果
d&bのアダム・ブルームは次のように述べています。「結果として、現在および将来のクライアントのニーズと施設の要件に対応できる、十分な柔軟性を備えた素晴らしいシステムが完成しました。たとえば、すべてのラウドスピーカーを個別のチャンネルに配置することは、しかるべきときにイマーシブエンジンを容易に実現する優れた方法です。」
クライアントの見解も同様に高く、テクニカルディレクターのオリ・クラーク氏は劇場の新しいサウンドシステムを「パワフルかつダイナミックで、音声がディテールまで再現され明瞭だ。」と説明しています。