全く新しい世界。

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「Holophony」。おおざっぱに組み合わされたこの形容詞は音響コンセプトを表す言葉であり、想像以上にエキサイティングな言葉かもしれない。この言葉はSydney Opera House (SOH)の作品、Korngoldの「Die tote Stadt(The Dead City)」を記述するために使用されたものである。このオペラは、1階席をフィルするオーケストラを要求するが、Sydney Opera Houseには非常に小さなピットしかなく、140名のオーケストラ団員と合唱団員が収容できない。このため、ここで講じられた対応を表すのが、この新しい形容詞に隠されている本当の意味なのだ。

「Holophonyは正しい用語とはいえないが、この概念は簡単に理解できる。つまり、それまでなかったサウンドのイメージを創造するのだ」とOpera Houseのレコーディング・ブロードキャスト部門を統括し、このプロジェクトでサウンドデザイナーを務めるTony David-Crayは説明する。音響的トリックを提供するこのシステムは、非常に型破りな形式で配置されたd&b audiotechnikラウドスピーカーと、バーチャルサウンドソースを空間中に置くためにデザインされた空間的音響アルゴリズムの組み合わせであり、これによって観客席のどの位置でも安定したポジションと安定した方向性が実現するのだ。

David-Crayの争点は真相をついている。劇場の中でオーケストラに合わせることができなくなったら、どのように演出すればよいのだろう?パフォーマーと観客に対する不安はいずれも明確だ。幸い、じっくりと考える時間が与えられた。「通常、このような種の作品はサウンドデザイナーに任せることが多い。私はここで何年にもわたってデザインに携わっているが、観客席の外側にオーケストラを置くという方法が明確だったから、様々なアプローチが考案されなければならなくなった。そのためにはつまり、非常に多様なチームの貢献が必要となるのだ。Opera Australiaは1年ほど前、私にコンタクトを取ってきたが、同じころ、偶然にd&b audiotechnikのRalf Zuleegと出会った。彼はOpera Houseの別の場所で仕事していた。当時、私が取り組んでいることについて話すと、彼の目は輝いた。これがどれだけクレイジーなプロジェクトかということを彼はすぐに理解したのだ。私はこれを意図的に話した。ラウドスピーカーシステムと音響再生において彼が持つ経験の豊富さについては良く知っていたし、最新技術について非常に詳しいということも知っていた。ただ、音響イメージングの複雑な世界にも精通しているということについては知らなかった。

Zuleeg はドイツ・エアフルトに本拠地を置くIOSONOにコンタクトをとり、Stephan Mauerを加えた Zuleeg、David-Crayのチームを編成し、このプロジェクトに取り組むことになった。「我々は機器についてのサポートも必要とした」とDavid-Crayは加える。「このため、オーストリアのd&bディストリビューターであるNASのShane Baileyもこのプロジェクトに加わった。我々が必要とする機器の調達をコーディネートするのが彼の役割となった。David-Crayのプロジェクトはまたも幸運に恵まれたとBaileyは説明する。「そう、NASは在庫にあった70個のT10を集めた。丁度、棚卸しを行なったところだったからこれらをかき集めることができた。最高のタイミングだった!」そして、このチームにまたメンバーが加わった。Steve McMillan率いるSOHのサウンド部門だ。「彼らは、現場で品物を入手し、それぞれのパフォーマンスの際にシステムを正常に機能させ、維持する際に生じる問題の解決に携わった。

Zuleeg は、シングルラウドスピーカーモデルをベースにシステム設計を行なった。「T10を選んだ理由は、ラインアレイとしてもポイントソースとしても使用できると考えたからだ。カントリー音楽ができるわけだ。どの方法をとるにせよ同じサウンド特性を持っている。だからただ単に、様々なエレメント、そしてラインソースとポイントソースの両方のフォーマットで構成されるシステムの微調整に無駄な時間を費やさないで良いようにしたのだ。まず最初に、Tonyは聴衆だけに提供されるシステムを求め、ステージ上のパフォーマー用としてフォールドバックのラウドスピーカーを使用しようとした。ここでは全くリアルなサウンドをつくるサウンドシステムを設計することが課題となった。シンガーとオーケストラの間の比が空間全域でうまく作用するようにするためには、シンガーたちのパフォーマンスは増幅されないほうが良い。」Zuleegのシステムデザインと、ラウドスピーカー設定に対するMauerの空間的音響アルゴリズムアプリケーションが駆使される中、第一夜の1週間前になってやっとサウンドフィールドが明らかになってきた。「最初のテストでは、ステージに立っているとオーケストラがピットの中にいるという印象がダイレクトにパフォーマーに伝わっていくのがわかった」とDavid-Crayは述べる。「ステージに一番近い列でも非常にナチュラルなサウンドが聴こえた。フロントフィルアレイのT10ラウドスピーカーからたったの1.5メートルしかない場所であっても、あまりにも自然なサウンドが伝わるから、ラウドスピーカーからの音だとは気付かない。」システムがどのように作用するかをイメージする最良の方法は、サウンドを再生するためにラウドスピーカーを使用しているのではなく、バーチャルサウンドソースの自然なサウンドフィールドをつくるために使用されていると思うことだとMauerは述べている。アルゴリズムが該当するラウドスピーカーのドライブ信号を計算し、空間の広がりの中で聴衆がサウンドを把握することができるようになる。つまり、必要であれば、そこにはない楽器から生じる音楽を聴衆に聴かせることだってできるんだ。」

オーケストラの大きさを観客席全体に伝えるにはどのようにすればよいのだろう?「メインの空間に向かって、前から後ろへ、サイドからサイドまで、オーケストラの位置は驚くほどに自在だ。一箇所に座っていても、例えばバイオリンとチェロが突然後ろから聞こえてきたりする。別のところに座ると、ミュージシャンがあたかもそこにいるかのように方向が変わったりもする」とDavid-Crayは述べる。David-Crayの声の中には興奮が漂っている。話せば話すほど、彼の説明は説得力のあるものとなっていく。「ステージ上に立ってると驚くような効果が感じられる。ステージ上にいるシンガーたちの耳には驚くようなサウンドが入る。私自身も彼らと一緒にステージの前方中央に立ってみた。ここではオーケストラのサウンドが前、そして上から、そして真下へ行くように聞こえる。オーケストラがあたかもピットのずっと奥の方にいるみたいな、不思議な感じだ。フロントエッジを動かすと、この印象はより強力になる。指揮者であるChristian Badeaをこの空間に連れてきて、ステージに載せた。彼も同じことを言ったよ。『不思議な感じ・・・』と。」

「このような音響イメージングの方法は、サウンド業界の中でもいつか話題になることだろう」とDavid-Crayは続ける。「ここでは全く新しいデザイン感覚が得られる。リスニング体験から生まれたテクノロジーを駆使し、『パフォーマンスとは何か?』というもっと哲学的な問いへの帰着を促してくれる。これは何を意味するのか?カクテルパーティー効果という、シンプルな例をあげてみよう。カクテルパーティーといった込み入ったサウンド環境の中では、周囲のガヤガヤという声を無視しながら1つの声に集中することができるようになっている。これは耳の脳システムがなせる技だ。これは2つの耳から来る信号を脳が処理し、全ての他の音との角度の差をもとにこれらの信号を分別しているからだ。これは両耳マスキング解除と呼ばれる効果であり、我々がオーケストラをどのように聞いているかということ、つまり周囲の世界をどのように把握しているかということを表している。観衆が各自の頭の中でミキシングしているのだ。これがまさにd&bがこだわっていることだ。ラウドスピーカーのボイシングと角度の一貫性と賢いアルゴリズムが融合し、聴衆の不信を一時的に停止させてしまうのだ。つまり、オーケストラは見えないが、そこにいると信じきってしまうほど巧妙なのだ。これが、私が言う『リスニング体験から生まれたテクノロジー』だ。」

これはサウンドスタッフたちが創り出すミックスの良し悪しとは関係ない。それが優れた点だ。サウンドスタッフは実際、サウンドには触れない。前にも説明したとおり、サウンドをコントロールするのは指揮者だ。だからリアルに聞こえる。Ralfはこのプロジェクトに大きく貢献した。Mauerがこのプロジェクトに参加してから、これは非常に成果のあるものとなったと考えている。しかし、イメージというものがここまで可能性の大きいものだとは正直考えていなかった。全く新しい世界なのだ。新しい扉が開かれたのだ。最終的には再生技術というところに落ち着く。そしてそこで、テクノロジーは消えてしまうのだ。全く新しい世界である。」

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