マリナーズ本拠地T-Mobileパーク、d&b xS-Seriesスピーカーシステムを採用
「10年前と比べて、大規模スタジアム/アリーナのあり方は大きく変わっています」と語るのは、Diversified U.S.で大規模会場の音響設計を担当するシニアデザインエンジニア、ジェフ・サンダーソン氏。「T-Mobileパーク(シアトル)のような4万人以上を収容するスタジアムでは、スピーカーの配置、到達距離、建物構造、空調(HVAC)など、あらゆる要素を考慮する必要があります。鍵となるのはファンの体験です。野球やアメリカンフットボールでは事前録音された音楽が使われますが、大規模な屋外スポーツイベントやツアーでは、会場をサポートし、観客にもクライアントにも高音質を提供できるリグに接続する必要があります。野球以外にも、コンサートや企業イベントなど、多目的に使われることを想定し、コンコースやアナウンスも含めたシステム全体を考慮する必要があります。」
サンダーソン氏はT-Mobileパークにおける初期導入時のオリジナル設計者でもあり、音響システムのアップグレードについては約8年間にわたって検討されてきました。「スタジアムの音響システムは通常10~15年ごとに更新されます。マリナーズはファン体験の向上を重視し、2020年に新しいシステムへの移行を決定しました。我々が選んだのが、d&b audiotechnikのxS-Seriesでした。」
サンダーソン氏は「d&bのシステムには非常に精通していたので、スピーカーの性能は十分に理解していました」と語ります。
「以前、アナハイム・エンゼルスの球場にd&bのシステムを全面導入したことがあり、その際に2018年、マリナーズのクルーを現地に招いて、試合中のデモンストレーションを実施しました。複数社のシステムを比較する形でのデモでしたが、最終的にクライアントはd&bを選びました。デモの段階で音質の違いは一目(耳)瞭然で、ファン体験の質が圧倒的だったことが決め手でした。音楽的にはほとんど調整不要で、屋根の開閉状態によって微調整する必要はありましたが、会場全体で高品質なサウンドを実現できました。」
「この数年で最も大きく変化したのは、音響ネットワークの部分です。現在はイーサネットを介してシステムを制御しており、ファイバーバックボーンを用いることで、ハムノイズなどもなく、非常に快適です。Q-Sysプラグインを活用し、システムEQの調整やチューニングはすべてQ-Sys上で行っています。」
「アッパーデッキ(上層スタンド)には、18S-SUBと24Sのポイントソースラウドスピーカー(フロント)、12S-D(ダウン)、12S-D(リア向け)を組み合わせたアレイを設置しています。上層スタンドだけで35か所に設置されており、サブウーファーの数は以前のシステムの2倍以上です。Q-LANとDanteのVLANを同一ネットワーク上で使用しています。下層スタンドエリアには24Sと12S-Dのポイントソーススピーカーを配置しています。」
「シーズン再開後にこのシステムが実際に稼働する様子を見るのがとても楽しみでした。」
Diversifiedのジェフ・サンダーソン氏およびそのチームとの連携により、既存の設置スペースを活かしながら、視界(視認性)を妨げることなくスピーカーを追加することができました。この音響体験の向上により、T-Mobileパークは新たに建設された他の球場と比べても遜色ない最新の設備を備え、ファンの皆さんが期待するクオリティの体験を提供できるようになりました。
目立たないキャビネットデザインを特長とするd&bのxS-Series設置用ラウドスピーカーは、レストラン、バー、ラウンジ、会議・ミーティング施設、講堂、講義室だけでなく、クラブ、宗教施設、多目的施設など、さまざまな会場での使用に最適です。可変性を高めるため、回転可能なホーンにより縦横いずれの向きでも設置が可能であり、カーディオイド・サブウーファー技術は低域を必要な場所にだけ届け、背面への不要な放射を防ぎます。
「d&bのUブラケットも優れたポイントの一つです。カラーや特注ハードウェアについても連携しました」とサンダーソン氏は述べています。「ラウドスピーカーは耐候性に優れており、塩分を含む空気や直射日光、さまざまな気象条件に対応したスタジアム用の特別仕様です。納品されたカラーも完璧で、スタジアムの座席や外野フェンスなどと同じグリーンで統一されています。」
高品質なサウンドは、室内や空調が整った空間だけに限定されるべきではありません。d&bは耐候性、塩害対策、カラー・質感などの美観要件にも対応するソリューションを提供しています。さらに、12Sおよび24Sラウドスピーカーのエンクロージャーは、スポーツ施設や多目的ホール向けにDIN 18032-3に準拠したボール耐衝撃性も備えています。Diversifiedは、会場全体に新たなファイバー配線を設置しました。MarinersのIS部門と連携し、音響システム専用の独立したネットワークを構築しています(これは変換ネットワークとは別であり、音響にとって重要な要素です)。サービス面では、必要に応じてコンピューターや中核システムにリモートアクセスが可能となっており、SMAARTソフトウェアを使ったタイムアライメントも行われました。
「d&bのDS10 Danteインターフェースにより、アンプへ送信されるAES出力が可能になります」とサンダーソン氏は説明します。「Q-Sysは、試合時の操作やトラブル対応のためにFOHエンジニアが使用しています。問題が発生した場合でも、システム内部にアクセスして診断する手段が用意されています。」スタジアムでは、指向性制御がとりわけ重要です。T-Mobileパークの開閉式屋根は非常に残響が強くなるため、リスナーにできるだけ近い場所にスピーカーを設置した高密度システムを構築しました。すべてのd&bサブウーファーは上部キャノピーに設置されており、システム全体に豊かな低域を提供していますが、特定の用途に偏らない設計となっています。
「d&b audiotechnikとの協働は本当に素晴らしい経験でした。ドイツとアメリカ西海岸との時差がある中でも、密に連携しながらプロジェクトを進められました」とサンダーソン氏は語ります。