ヘルシンキHartwall Arena会場のEurovisionソングコンテストでのJ-series
ユーロビジョン ソング コンテスト(ESC)は、開催当初からジャンルを問わない非常にバラエティに富んだ雰囲気で行われていましたが、昨年のESCで予想外に優勝者となったLordiの存在によって、今年フィンランド、ヘルシンキのHartwall Arenaで開催されたESC2007にまた新たな風が吹き込まれました。ショーのTV放映は、ディレクターが単なる煌びやかなステージを画面に映し出すだけではなく、三時間にも及ぶ長時間番組を様々な音楽と視覚的に楽しめるような内容となりました。音響面においても、「色んなジャンルの音楽が膨大にありました。」と、システムデザイナーのReima ‘Reiska’ Saarinen氏が語ります。「あらゆる種類の音楽に対応できる音響システムを供給しなければなりませんでした。」このイベントを統括するヨーロッパ放送連合(EBU)は、非常にもっともなことですが「制作に関わる機材は、コンテストのどの参加者の好みに左右されない公平でなくてはならない。」とはっきりと指摘しています。 「このHartwallアリーナは、以前にも音響システムを設置したことがあります。」Saarinen氏が説明します。「つい最近では50 Centのコンサートで、フィンランドの大手オーディオ会社Akun Tehdas社からレンタルされたd&b audiotechnikのJ-Seriesシステムを使用しました。 Hartwallアリーナは典型的な広いホッケー用アリーナですが、天井や床の断熱材の吸音効果により非常に音響には好ましい環境ですが、このコンテストではさらにフィンランドの放送局YLEが床にカーペットも敷いたので余計に良い環境になりました。 VIP席のガラス窓とバルコニーの前方は私にとって唯一の問題でしたが、50 Centのコンサートでの経験から、 J-Seriesなら大丈夫だという確信を持っていました。」 視聴者の目線も考慮すべき点で、フィンランドの放送局YLEは、テレビの映像内にラウドスピーカーが映ることを避けたいと考えていました。「Reimaが設計するシステムは、大きく3つの構成に分けられます。」と、Akun Tehdas社のシステムエンジニアTimo Liski氏が話し始めました。「約20mのステージに極力近い地点2箇所にJサブウーファーをフライングし、その外側に2台のJ12をJ8の下部に接続したラインアレイを設置しました。ステージ高にフロントフィルを置くことは許可されず、最終的に全システムを画面への映り込みを防ぐため非常に高い位置に吊るすことになったにも関わらず、観客席前方はJ12で完璧にカバーできていました。そして、両サイド前方席に向けにステージ脇にもd&b Q-Seriesラインアレイを使いました。」Liski氏は、 d&bアプリケーションサポート担当のJonas ‘Jones’ Wagnerに頼んで、Saarinen氏のデザイン構成に見落とした部分がないかどうかを確認してもらいました。「ホッケーコートの中心の頭上に吊るされた非常に大きなスコアボードが、中央奥の客席に対して問題が生じる原因となるのではないか?とWagnerが意見をくれました。そして我々も既にそれを承知していましたが、運よくスコアボード後ろ側にスポットライト用の照明ブリッジがあったために、その後ろ端にQラウドスピーカーを吊るすことができました。これによってスコアボードの影になる離れているバルコニー席まで充分カバーできました。このシステムを導入してまだ一年未満の経験しかないので、Wagner氏に確認してもらい我々のシステムに対する理解や計算が間違っていないかどうかをメーカーからアドバイスをもらえたことで非常に安心することができました。」 システムのコントロールとミキシングは、全てデジタルで行ないました。FOHはKimmo Ahola氏、栄誉あるモニター担当はKlas Granqvist氏とArto Nuppola氏がInnovasonのコンソールを使用しました。Liksi氏は、(バックステージ右側にセットアップされていましたが)FOHでROPE Cを使用しました。「Reimaは、私に後方左右の観客席向けに8kHz近辺の若干の調整を希望されましたが、それ以外ではシステムのタイムアライメントの調整以外EQは触っていません。そして、今回私はd&b D12アンプのSenseDrive機能が、本当に効果的だということを実感しました。何本かとても長いケーブルをアンプから照明の吊り物を伝ってラウドスピーカーまで引き回しましたが、アレイシステムのパフォーマンスは安定しており、アンプが直ぐ傍にあるような感じでした。」そして、モニターにもd&b製品が使用されました。 M4ウェッジモニターは、舞台セットを製作したStage One社の力を借りてステージ下に巧妙に隠されました。、サイドフィルは、フライングする承諾をYLEから得て、Saarninen氏が前例のない構成を試みました。「ステージの頭上側面にQ1キャビネットを片側3台だけ吊るしました。キャビネットは、ステージから限界ギリギリの9.5m地点に吊り下げたので、舞台に立つ人の耳から約12~13m離れています。サイドフィル同士、そしてモニターとのディレイも無視できるほどの遅れしかありませんでした。」これによって、 Saarninen氏はステージ上のウェッジモニターの数を減らすことができ、その分舞台セットに大型画面のLEDビデオ装置を持ち込むことができたのです。 Saarinen氏は、実際のオペレートに対して一つだけ懸念事項がありました。ESCの演出に最近よくあることなのですが、「司会者は自由に動けるよう頭部装着型のマイクをつけていますが、時々客席を盛り上げるためにPAシステムの直ぐ横に立ちます。これは、フロントフィルの設置について強い要望をださなかった理由の一つでものあります。彼らの頭上にあるJ12は120度の水平指向性がありますが、マイクの装着位置をステージの内側にすることで、そのカブリ込みを装着者の頭でほぼ失くすことができました。」 「このライブサウンドのシステムにとても満足しています。」とYLEの音響責任者Matti Helkamaa氏が言いました。「技術者にも恵まれ、システムにも恵まれ、本当に望んだ通りになりました。私はオーディオ、インターカム、実況放送、放送音、会場の音響の全てに責任を持っていますが、会場の音響が一番楽でした。」今回、FOHにいたAhola氏も同様に満足そうでした。彼は、国際的にも評価の高いフィンランドのロックイベントNightwishの音響に携わっています。「Nightwishで定期的にミックスをしていますが、 J-Seriesのサウンドは私の使い慣れたd&b Qラウドスピーカーの音質と全く同じです。Qラウドスピーカーは、私がスカンジナビアでのツアー用にAkun Tehdas社から定期的にレンタルしていますが、このような大型の会場でも本当に余裕を持ってカバーできることがわかったため今後はJ-Seriesの使用も考えたいと思います。」